二宮 陸生
開封から始まるそれぞれの自画像
中学校の美術の授業中、生徒の作品に思いもよらぬおもしろい表現を見つけることがある。全体が一つの目標に向かって進行しているときに、不意に宝物が発見されたような驚きと喜びをもって。これこそ生徒独自の創造的な表現ではないか。そこには新鮮な存在感と今まで見えなかった生徒の独自性が開いている。
きっと創造的な表現が生まれる背景にはその生徒にとってのあるきっかけがあったに違いない。その一つとして、作家作品への接近があげられよう。生徒は作品の持つ造形的なよさやおもしろさを直感し、その色彩とフォルムに触発されたのだろう。
だとすれば、それは鑑賞によったのである。閉ざされていたそれぞれの創造性が作家作品との出会いによって開封されたのである。気づき、関心を抱き、共鳴し、他ならぬ自分が表現された。その素直な描写はまさに一人ひとりの自画像である。一つの鑑賞によって、恥ずかしさや苦手意識の殻が破られ、無防備に素直な自分が現れたのである。
そこで、生徒の作品とともに、授業で起きた開封と開封によって現れ始めたそれぞれの自画像を考察しようと思う。
針金ドローイング「ゾウ」(中学生作品)
針金( φ1.2 ) 20 × 18 × 7 (cm) 複数
自画像の背景(中学生作品、部分)
紙、アクリルガッシュ 297 × 420 (cm) 複数
とことんドローイング「自分」(中学生作品、部分)
紙、ボールペン 210 ×297 (cm)
長島 瑠
透明なことば 不透明なことば
気がついた時には口から出ることばに、出した瞬間に消えていっていく、もしくは違うものに変わっていくような、不安感を覚えていた。自分の内に在る時だけことばは意味を持ち、ことばとして成り立っている。外に出した瞬間にことばは私のことばでなくなり、不透明なものに変わっていく。それがわかっていても、私は毎日ことばを外に出すことを繰り返す。それは私のことばが外の世界や他者が無ければ成り立たないものでもあるから。
私の内と外、その間に存在していることばの矛盾や境界。
その矛盾は考える程に息苦しく、その境界は目を凝らす程に混ざり合う。
「 雨 」
ガラス、水性ニス/映像 300 × 240 (cm)
「 本 」
白い本、活字 50 × 240 (cm)
「 食事 」
布、コーヒー、テーブル 80 × 75 × 80 (cm)
杉 麻衣
おむすび地球(ぼし)
〜つながること・暮らすこと〜
この地球にはたくさんのつながりが張り巡らされている。
そのなかでも私は人間だから、人とのつながりから大きな影響を受けている。
この私の等身大のパーツとなっている布は身の周りの人が贈ってくれた布。
その布のひとつひとつにその人を想った刺繍を施した。
この作品にはつながりが自分の周りで膨らむのではなく、他を発見することが自分自身を発見することになり、他は発見されることで新しい自分に目覚めるといった私の“つながり”の意味を込めている。
どんな物や人、環境との出会いも自分を知る手がかりになり自分をつくる糧になっている。
“つながり”をつくっていく感覚はチクチク刺繍していく感覚と似ている気がした。
見えている自分 (片面)
布、刺繍糸、毛糸、布用絵の具 280 × 155 (cm)
森脇 由梨
“使う”から生じる“私”と“つながり”
私は他者とコミュニケーションをとることが苦手だ。
『嫌われたくない』という気持ちが強く、いつの間にか人と距離を置くようになっていた。
だが、勇気を持って一歩踏み出してコミュニケーションをとった後は何か得ることができていて、成長し、大きくなった気になる。
その感覚は好きだ。
だから、一歩踏み出しては下がり、踏み出しては下がりを繰り返していた。
すると、同じ場所にずっと留まっていることに気がついた。
次は、二歩踏み出してみたい。
この作品を通して、さらに踏み出せる自分になりたい。
『こもりんまゆまゆ・改話』
プラスチック、糸、フェルト、針金 障子紙、パイプ、紙コップ、真綿
155 × 155 × 155 (cm)
上地 愛乃
かわいい ♡絶対的少女領域♡
甘美で感傷的、夢想的な情緒。装飾的で、あどけなくて。少女が好む特有の可愛さ。
「女性」と「子供」の狭間にいる存在。それは脆く、夢見がちで不思議なものだ。
フリル、レース、リボン。妖精のようなパステルカラー、
お人形のようなメイク。お菓子、ファンタジックなお話。
もっと、もっと。
私だけの「かわいい」… 少しだけなら分けてあげてもいいよ?
「どこにいるの?ユニコーン」
紙芝居
「 House Sweet House! 」
香料/映像投影
具志堅 裕介
「音彫」
空間には <ノイズ> があふれ、次々に耳へと伝わってくる。 とめどなく流れてくる <ノイズ> のほとんどは <音> とは認識されずに聞き流 されてしまうが、ふとした時にその <ノイズ> を <音> と認識する時がある。 「この音はなんだろう?」と、その <ノイズ>
を意識し、耳をそばだてて聴き続 けていると、いつの間にかその <ノイズ> は <音> へと変化し、やがてどの <音 > が <ノイズ> だったのかわからなくなる。
それは <音> か <ノイズ> か。
「IN THE KITCHEN」
サウンドインスタレーション
26,250360.127.719390
サウンドインスタレーション
橋本 優
ハッシ村 理想の「はぐくみ教育」
日本のみなさんへ
こんにちは、ぼくはトーイです。
5年前、9歳だったぼくはハッシを知るための旅に出ました。
旅を記録した手帳、ぼくはこれを日本に留学するユウさんに託します。
みなさんがハッシを知る手がかりになればと思います。
約 100 年間、ぼくたちの村は他の村や国とほとんど関係を持ちませんでした。 お金は 100 年前に捨てました。
銃も村を危険から守るとき以外は使えません。 それでも、ぼくの村は大きな争いもなく、必要と疑問のために学び、働き、そして 美しかった。またいつかどこかで。
愛をこめて トーイより
トーイの手帳
紙、ウォルナットインク 獣皮
手帳外寸 11 × 16 × 4 (cm) 手帳本体 894 × 12 (cm)
小嶺 友太
『僕はどの糸をたどり、あなたと出会う』
偶然か必然か僕がたどった糸の先にあなたがいた
あなたと出会いつながることで僕は形づくられる
僕はあなたとのつながりが切れることが恐い
あなたに忘れられることが恐い
僕はあなたを忘れないから
あなたはたまに、僕を思い出してほしい
だからあなたには僕が作ったものを使ってもらおう
そうすればあなたと僕の糸が切れることはないと思うから
これまでに僕と「あなた」がつながった証として「あなた」が毎日目にできるもの、「あなた」の性格、特徴、イメージを形にしたものを作った。受け取った「あなた」は笑うかもしれない、怒るかもしれない、何とも思わないかもしれない。ただこれを見て、たまに僕を思い出してくれたならそれだけでいい。
『0921XX』
29枚1組作品
家庭用ステッカー用紙 15×15 (cm)